2019年5月30日木曜日

第78回定期演奏会のお薦め文 本公演は終了しました



神戸フィルハーモニック 音楽監督
朝比奈 千足

 ウィーンという町はまるで町全体が音楽の歴史博物館のようです。数々の名曲を生んだ作曲家ゆかりの記念館や石像だけでなく、石畳の道に今にもあのベートーヴェンやブラームスの姿が現れるのではと錯覚するほど、当時の街並みがよく整備され保存されています。ハプスブルグ王朝の篤い庇護の下でその時代の音楽家たちがどんなにのびのびと活動し生活していたのか、また当時のウィーンの市民たちにとって音楽がどれほど身近になっていったのか、その様子がひしひしと感じられます。

 そんなウィーンで活躍した三人の作曲家の作品を聴いていただきます。

 三つの曲はそのどれもが当時のウィーンの貴族と一般市民の両方に好まれ、受け入れられていた作曲家の自信作なのですが、むしろ私自身の好みも多分に盛り込まれたプログラムです。シュトラウスの軽妙でかつ旋律にウィーンの香りがたっぷりと染み込んでいるところ、モーツアルトの悲劇的な感情をにじませた深刻で真面目な姿を、そしてブラームスの穏やかな空気を感じさせる心の優しさを、それぞれ感じていただきたくて選びました。

 それにしても不思議です。シュトラウス以外はモーツアルトもブラームスもウィーンの生まれではないことです。これはあのハイドンもベートーヴェンもそうですし、モーツアルトのライバルであるサリエリでさえウィーン人ではないのです。それほどウィーンという町には周辺の音楽家たちを吸い寄せる何か魅力があったのでしょう。
ウィーンの魅力とは何か、見つけていただけると幸いです。