心に届いた言葉
1976年、指揮者を目指そうと、ヨーロッパへ渡りました。オーストリア人の指揮者オットマール・スウィットナーさんの別荘に押しかけ、弟子入りを志願したところ、助手として採用してもらえました。
当時スウィットナーさんは、ドイツの国立歌劇場の総監督。調子の悪い歌手を本番直前に外すなど、音楽には厳しい人でしたが、冗談好きで、ある日、ふと私に尋ねたのが、この一言でした。
意味がわからず戸惑っていると、笑いながら説明してくれました。「オーケストラを馬とすると、指揮者が騎手。手綱を緩めたり締めたりしながらも、気持ちよく走ってもらわないといけない」
指揮者はつい「自分の力でよくしよう」と思いがちですが、演奏者を主体にしなさい、というスウィットナーさんの考え方は今も、私の指針になっています。
帰国後、神戸のオーケストラで指揮を務めるようになりました。現在、メンバーは約80人。練習中は必死で、つい声を荒げることもありますが、怒ってばかりでは、誰もついてきません。大切なのは努力を重ね、情熱を伝えることです。厳しくも陽気に、実績を積み上げたスウィットナーさんに、そんなことも教えられた気がします。